インクルーシブ教育とは何か

特別支援教育が「インクルーシブ教育」に!?(2010/08/02)
筆者:渡辺敦司
文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会は7月から、特別支援教育の在り方の再検討を始めました。障害者権利条約の締結を視野に、「インクルーシブ教育システム」を構築することを目指すとしています。インクルーシブとは、多くの人には聞き慣れない言葉だと思います。いったい、どういうことでしょうか。
障害のある児童・生徒に対する教育は、かつて「特殊教育」と呼ばれ、障害の種別に対応した教育を行うことが主流でした。しかし最近では、障害の重複化とともに、発達障害など軽度の障害も注目されるようになっています。そこで、グレーゾーンも含めて、一人ひとりに必要な支援は何かという立場から教育を考えよう、ということで、2006(平成18)年の学校教育法改正で「特別支援教育」に改められています(実施は07<同19>年4月から)。
一方、昨年12月に発足した政府の「障がい者制度改革推進本部」は、今年6月に第1次意見をまとめ、政府の基本的方向として閣議決定されました。そこで目標に掲げたのが「インクルーシブな社会の構築」であり、そのための「インクルーシブ教育システム」です。
インクルーシブ(inclusive)とは、「含んだ、いっさいを入れた、包括的な」(ベネッセコーポレーション『Eゲイト英和辞典』)という意味です。障害者だからといって排除されたり、単なる保護の対象として扱われたりするだけでなく、健常者と同じ権利を持った主体として、社会の一員に含まれるような「共生社会」を目指そうというものです。その基となった障害者権利条約では、障害者の「自ら選択する自由」が強調されています。
第1次意見では、インクルーシブ教育を「障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育」だとして、
▽障害の有無にかかわらず、すべての子どもは地域の小・中学校の、通常の学級に在籍することを原則とする
▽本人や保護者が望む場合や、適切な環境が必要な場合には、特別支援学校や、通常の学校の特別支援学級に在籍することができるようにする
▽就学先を特別支援学校や特別支援学級に決定する場合には、本人・保護者、学校、学校設置者(市町村など)の三者の合意を義務付ける
▽障害者が通常の学級に就学した場合には、合理的配慮として支援を受ける
──などを提言。制度改革の基本的方向の結論を、今年度中に出すよう求めています。中教審の検討開始は、これを受けたものです。
障害者団体の中には、特別支援教育自体が健常児から障害児を「分離」する教育だという批判も根強くあります。その一方で、特別支援教育関係者などには、できるだけ早期から障害に応じた教育を行ったほうが、一人ひとりの能力をより伸ばせる、という考えがあります。
制度化に当たっては、いろいろ難しい問題があるのも現実ですが、共生社会の実現を目指して、ぜひ≪日本型インクルーシブ教育≫ のより良い形を模索してもらいたいものです。

ベネッセ教育ニュースより
http://benesse.jp/blog/20100802/p1.html